友香の実家

9/14
前へ
/2234ページ
次へ
「父さんも母さんも平気な顔をしているけど心配しているんだ。そういうことを念頭に置いて、大人の、未婚の女性として恥ずかしくない行動をとりなさい」  兄が時代錯誤的な言葉を吐く。  こんなに古臭い考えを持っていたなんて今まで気づかなかった。  そんなことを皮肉の一つも言いたかったが、また小野の顔が見えた。  小野の口が、《はい》と動く。  友香は言おうとしていた皮肉を抑え込むように、ぎゅっと拳を握り締めた。 「はい」  そしてさらに《ごめんなさい》と、小野の口が動いた。  友香は目を剥く。  冗談じゃない。  兄に謝れというのか。  いくら小野の言うことでも、それはなかなかできないことだった。  そんな意思表示に目をそらした。  しかし、小野が厳しい目で《ごめんなさい》と口を動かす。  友香はしぶしぶ小野の指示に従った。 「ごめんなさい」 とつぶやくような小さな声しか出てこなかった。  しかし、兄は驚くほどその表情を変え、声を和らげた。 「友香は教師になるんだろう。教師が男と二人で住んでいることがわかったら、生徒や保護者はどう思う」  それは友香も考えた。  中学、高校の英語教師が同棲しているということがばれれば、生徒へ与える影響も大きいだろう。  ひたすら隠し通すことになる。  それは友香にとって、苦痛になるだろう。  友香にはもうそれ以上何も言えなかった。そのこともよく考えておかなければならなかった。 「わかった。よく考えてみます」  小野と一緒に住みたい一心で、軽はずみな行動をするところだった。  兄が笑って、小野の方を振り向き、その肩をポンと叩いた。 「ありがとう。おかげで一応、冷静に話ができた」 と言った。  小野の指示で謝ったこと、ばれていたみたいだった。 「わかっていたんですか」  小野も悪戯がばれた子供のような顔をする。
/2234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

722人が本棚に入れています
本棚に追加