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「そりゃ、わかるだろう。チラチラと友香の視線はぼくの後ろへうつるし、あんなに噛みつきそうな顔をしていた友香が、一言も反論しないで素直にごめんなさいなんて言うわけがない」
もしも小野がそこにいなかったら、友香と兄は真正面から対立していただろう。
友香も自分が悪いと思っていても、その主張は引き下げられなかっただろうと思う。
沙織もほっとして、ソファにもたれかかっていた。
緊張させてしまったらしい。
そこへ母が顔を出した。
帰ってきていた。
「ただいま。いろいろ買えたわよ。カニも買えたの。ね、ちょっと手伝って」
その場の雰囲気が一変に変わった。
友香もほっとする。
母たちはもしかしたら友香たちの話を聞いていたかもしれなかった。
小野とのこと、安易に考えていたが、もっとよく考えてから行動しなければならない。
友香が立ち上がろうとすると、兄が言った。
「あ、友香はいい。小野くんとここにいなさい。ボクと沙織が手伝う」
沙織が破顔し、立ち上がる。
友香にはそれが意外だったので、ぽかんとして兄と兄嫁が台所へ行く姿を眺めていた。
小野が友香の隣へ移動してきた。
よく我慢したという意味なのか、友香の肩をポンポンと叩き、抱き寄せた。
その胸に顔をうずめる。
涙が出そうになった。
なんて安心できる存在なんだろう。
「小野くん、ありがと」
ぼそりと言った。
小野の表情がほころぶ。
「ちょっとひやひやした。友香がマジ切れしそうだったから」
すべて読まれていた。そんな姿を見せてしまって恥ずかしく思った。
「うん、小野くんがそこにいなかったら、きっと、というか絶対に大喧嘩になってた」
小野がため息交じりに笑った。
「ったく、短気だよな」
小野は、台所に目を向ける。
中の様子をうかがっているらしい。
台所では、大きなマグロの塊を捌くことで議論をしていた。
活カニもどうやって茹でるのかを沙織がスマホで検索しているらしい。
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