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篠原由美は暗いうちから起き、夕べ用意しておいた服に着替え、歯を磨いていた。
伊豆の一泊旅行だった。
ボーイフレンドの桜林譲が、釣りのサークルに入っていた。
時々、本格的な海釣りをするので、そのガーフルレンドたちも一緒に行き、旅館へ泊る。
由美は、以前に一度だけ一緒に船に乗り、釣りにも参加したことがある。
他の女の子も、その寒さと船の揺れなどで、大体が根をあげていた。
釣りに興味があれば別だろうが、由美はただ、譲にかまってもらいたかった。
初心者なのだから、手取り足取りで初めから教えてくれると思っていたのだ。
しかし、譲は他の仲間とばかりと話し、自分の釣りに没頭していた。
それはまるで、由美が勝手についてきて、一緒に船に乗りたいって言ったからだと言わんばかりだ。
かまってくれないから、ずっとすねて口を利かなかった。
それでも無視されて、由美は涙をこぼす一歩手前だったのだ。
譲がそんな状態の由美に気づいたのは、釣りが終わり、陸路に戻る途中だった。
譲が一生懸命に謝り、なだめてくれたが、由美はそのまま駅に向かい、家へ帰ったのだ。
それから、一か月はメールにも返事をしないで、口も利かなかった。
しかし、ずっと、譲はマメにデートに誘ってくれ、由美に尽くしてくれた。
それで今回、またこの伊豆旅行へ参加することにした。
もう釣りの船には二度と乗らない。
他の女の子たちと観光をし、旅館での食事、宴会だけ一緒にいるならいい。
それにもう譲を許すのもこの辺が潮時だろう。
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