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けれど、バンドのアマチュアコンサートに出場する当日、不参加となった。
もちろん、それは譲のせいではない。
突然の事故だった。
しかし、その後、バンドは解散。
もうあの格好いい譲の姿は見られなくなった。
普通の、どこにでもいる、女の子たちの話題にも上らない男の子だった。
譲はやさしい。
由美のわがままをすべて受け入れ、きいてくれた。
友人たちからは彼氏というよりも、世話焼きの執事のようだと言った。
大体、由美のような理想主義の女の子がガールフレンドだと、彼氏はかわいそうだとも言われたのだ。
そう、由美の家は割と厳格だった。
高校の頃から門限は夜九時。それは大学生になっても変わらなかった。
だから、譲はいつも飲み会なども先に抜けて、由美を家まで送ってくれる。
その後、譲は再びその飲み会に戻っていたことも知っていた。
由美としては面白くなかった。
譲が由美なしで、楽しんでいる風景を想像していた。
由美が帰るなら、一緒に帰ってもらいたかった。
一度、そのことを言ったことがある。
譲は苦笑いをして、なるべくそうするけど、と曖昧に答えていた。
そして、秋の伊豆一泊旅行、由美が、他の人たちと一緒に泊まるからと渋る両親をなんとか説き伏せて、了承してもらった。
やっとのことで外泊できると楽しみにしていた。
それを譲は自分本位な釣りにばかりかまけて、由美にかまってくれなかった。
あんなに腹がたったことはない。
バカにされているのかと思ったくらいだ。
もしできることならば、そっと黙って帰ってしまいたかった。
しかし、海の上ではそんなこともできなかった。
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