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旅館は下田港が見下ろせる海沿いにあった。
切れ長の目のきれいな仲居さんが友香を案内してくれた。
女子はあやめの間、男子はその隣の柳の間だった。
トイレと内風呂もあり、四畳ほどの荷物置きのような小部屋もあった。
そして十畳ほどある広い座敷、その先にはベランダがあり、そこから伊豆の海が一望できた。
食事は柳の間に運ばれ、男子たちと一緒に摂ることになった。
「あの桜林さんとつきあえるなんてうらやましいよ。由美、どんな手を使ったの?」
そんな言われようだった。
由美が桜林を好きになったというよりも、向こうが由美を好きになり、まとわりついてくるようだ。
譲のことを気に入ったのは、周りが譲のことをかっこいいと思っているからだった。
皆がうらやましいって思っている人とつきあえるなら、断ることはない。
そんな安易な理由もあったと思う。
確かに譲は、由美を大切にしてくれる。
電話をしてくれるし、デートにもマメに誘ってくれた。
でも、今はやりがいを失った、そんな腑抜けな印象だった。
由美はそんな譲を見ることがいやだった。
友達に格好いいと思われている譲が好きだった。
譲と会うたびに面白くないと思っていた。
こんなはずじゃない。
今の譲は、由美にふさわしいのかと考えずにはいられなかった。
「由美ちゃんって、本当につまんなそうな顔をしているよね。それって全部、僕のせい?」
先日、譲にそんなことを言われた。
しかもその顔が真顔だったから、さらに由美の怒りを煽った。
冗談じゃない。
なんでそんなことを、譲に言われなければならないのだろう。
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