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譲のせいで、面白くないのだ。
譲が腑抜けみたいになったから、友達にも自慢できなくなっていた。
譲が、譲がすべていけないのに、なぜ、こんなことを言われなきゃいけないのっ。
体裁が悪かった。
由美が振るのならいいが、フラれるのはいやだ。
そんな恰好悪いこと、友達に言えない。
だから、この伊豆旅行へ着いてきた。譲がどんなふうに由美をもてなすのだろうか。
そんな期待があった。
けど、譲は全く由美を特別に扱おうとしなかった。
それよりも以前より醒めた感じの態度。
それも許せなかった。
もしかすると後悔しているのかもしれない。
譲は由美と別れたいのか。そんなことは許さない。
そんなことをずっと思っていた。
由美たちは黒船観覧船に乗り、海沿いのコーヒーショップで海を眺めた。
天気はいいが、寒い。
譲たちはそんな寒空にも負けず、海釣りを楽しんでいることだろう。
譲と一緒にいても話が弾まない。
譲が話しかけても、由美はどこか上の空で曖昧な返事だけだった。
「それよりも友香、小野さんのこと、どのくらい好きなの?」
由美はぼうっとしていたから、目の前の薫が、そう友香に訊ねていて、はっと顔をあげた。
友香がはにかんだ様子で答える。
「えっ、まあ。好きって意識するよりも、まだ気になる人っていう段階。一緒にいる空間が好き。でもまだ、向こうの気持ちもわからないし、これからどうなるのかなんてわからない」
「なによ、それ。いつもの友香らしくないな。井上とつきあったから、だいぶ、勇ましい友香がどこかへ行っちゃった感じがする」
そう薫が言って笑っていた。
その時、気づいた。
この友香は、今大人気の俳優とつきあっていた人だったと。
姫と呼ばれていて、その性格はかなり派手で、他の男の子たちとも遊んでいたという悪評を聞いたことがある。
でも、ここにいる友香は全然そんな印象は受けない。
それに小野に気があるらしい。
あの事があった小野だ。
友香はあのことを知っているのだろうか。
そんな疑問が起こる。
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