伊豆の旅館 由美

8/9

717人が本棚に入れています
本棚に追加
/2234ページ
 譲のせいで、面白くないのだ。  譲が腑抜けみたいになったから、友達にも自慢できなくなっていた。  譲が、譲がすべていけないのに、なぜ、こんなことを言われなきゃいけないのっ。  体裁が悪かった。  由美が振るのならいいが、フラれるのはいやだ。  そんな恰好悪いこと、友達に言えない。  だから、この伊豆旅行へ着いてきた。譲がどんなふうに由美をもてなすのだろうか。  そんな期待があった。  けど、譲は全く由美を特別に扱おうとしなかった。  それよりも以前より醒めた感じの態度。  それも許せなかった。  もしかすると後悔しているのかもしれない。  譲は由美と別れたいのか。そんなことは許さない。  そんなことをずっと思っていた。  由美たちは黒船観覧船に乗り、海沿いのコーヒーショップで海を眺めた。  天気はいいが、寒い。  譲たちはそんな寒空にも負けず、海釣りを楽しんでいることだろう。  譲と一緒にいても話が弾まない。  譲が話しかけても、由美はどこか上の空で曖昧な返事だけだった。 「それよりも友香、小野さんのこと、どのくらい好きなの?」  由美はぼうっとしていたから、目の前の薫が、そう友香に訊ねていて、はっと顔をあげた。  友香がはにかんだ様子で答える。 「えっ、まあ。好きって意識するよりも、まだ気になる人っていう段階。一緒にいる空間が好き。でもまだ、向こうの気持ちもわからないし、これからどうなるのかなんてわからない」 「なによ、それ。いつもの友香らしくないな。井上とつきあったから、だいぶ、勇ましい友香がどこかへ行っちゃった感じがする」  そう薫が言って笑っていた。  その時、気づいた。  この友香は、今大人気の俳優とつきあっていた人だったと。  姫と呼ばれていて、その性格はかなり派手で、他の男の子たちとも遊んでいたという悪評を聞いたことがある。  でも、ここにいる友香は全然そんな印象は受けない。  それに小野に気があるらしい。  あの事があった小野だ。  友香はあのことを知っているのだろうか。  そんな疑問が起こる。
/2234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

717人が本棚に入れています
本棚に追加