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想い、呪い、ひとときのつながり──真辻春妃『天使のささやき』『ひそむ悪鬼』
天使と悪鬼
かつて、太陽のような恒星のまわりを惑星が回っているのと同様あたかも原子核を中心に電子が周回していると原子の構造を想定したり、人間の脳の構造と機能をコンピュータになぞらえてみたり、その時代その社会で不可視な物事や未解明なメカニズムが、既知の原理から類推されて語られることが往々にしてある。原子の惑星モデルも、脳をコンピュータとしてみるのも、いまでは正確ではなかったことがあきらかになっている。
しかし、科学の分野では仮説を組み立てるのに必要不可欠な思考実験でもあるし、文学をふくめ美術でも音楽でも何でもさまざまなジャンル表現で、多くのメディアで比喩としてつかわれる類推の発想と認識は、しばしば有力な手法であり効果的であるのはまちがいない。アナロジーを聯想から関連づけとか、アソシエーションとかいった語に換言してもいい。
有効にアナロジーを使用するには作り手が意識的であるほうが望ましいが、結果的に的確に強く掴んだのなら、かならずしも自覚されていなくともいいし実際それでも充分に可能だろう。すぐれた寓話は概してそういうものだ。また当然、時代が変わり認識が改められれば、その都度その時々の類推が誤用であったことも判明しアナロジーも更新される。
真辻春妃https://estar.jp/users/109290821の先頃(2024年9月)に完結した最新作、長篇『天使のささやき』https://estar.jp/novels/26242056と中篇『ひそむ悪鬼』https://estar.jp/novels/26251348もまた、両作ともアナロジー的な寓意をそこに読みこむことができる。後者はわりあいストレートなモダンホラー作品に仕上がっている。前者は過去作を挿話として組みこんだうえで設定と世界観を統一化というよりは共有させ、新たなエピソードをくわえ物語を拡張させた意欲作であり、既存のカテゴリーにはあまりあてはまらないものとなっている。さしあたり連作長篇とも連作短篇集ともいえ、ヒューマンドラマの現代ファンタジーとでもジャンル分けできるだろうか。各ストーリーごと個別に独立した話として読者はたのしむこともできるのだが、いろんなつながりに着目することでまた一味も二味もちがった新しい景色を見られることにもなる。
主題の方向性もモチーフにしているものもそれぞれ完全に異なってはいるものの、すこぶる現代的な実感性を描出したアナロジーにもなっているという点ではともにとても示唆にとむ。
それとはべつに、創作論の面からみても注目にあたいすべきポイントがあることも見のがせない。今回、二作ともに作者が共通して創作に取り入れた方法論、それがメタフィクション性である。
具体的には、『ひそむ悪鬼』のほうはわかりやすく「ブログ」という一種の作中作の形式を、『天使のささやき』では創作過程そのものを登場人物たちに語らせるという自己言及的な展開を、それぞれに物語のなかで劇的につかっている。さらにいうと、後書きで作者みずから打ち明けている話によれば、『ひそむ悪鬼』で中盤に起こる不可解で不安を煽る出来事は実際に過去、作者が実生活で経験したほんとうのことらしい。
いくつもの物語を、いくつもの種類の小説を真摯に継続的に創作してきたこの作者は、いよいよ大きな試行錯誤をあるいはやりはじめたのかもしれない。初めてのにしろ、何度目かのにしろ、結果的にこれが小さくはない変革であることにはちがいない。
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