想い、呪い、ひとときのつながり──真辻春妃『天使のささやき』『ひそむ悪鬼』

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 できるだけ持続して読者の興味を惹きつつ、できるだけ物語を引き延ばし長大化させるには、つまるところ斬新なストーリーをつぎつぎと展開するにはいかに工夫すればよいか。作品が長篇の長さに耐えうるほど、長篇にふさわしいほどの内容にするにはどうすればよいか。  この作者がこれまで採用してきた方法論はおもにキャラクター重視、キャラクター中心に創作することだった。主要人物の性格や背景や外見などキャラ設定をこまやかにたくさんつくりこむ、登場人物をヴァライティ豊富に多めに増やす──といったキャラクター性のゆたかさによるものである。  他方、単体作品の短篇ではキャラクター先行ではなく、ストーリー先行型の、ようするにメインとなる話をどうするかという発想でつくられたものが比較的多い。コンテストのあたえられたテーマにそってであるとか、おもいついたネタをもとにふくらまし一話にまとめたものであるとか、サイドストーリー的な作品でないかぎり、キャラクターの魅力に頼らない創作方法が選択されているようにみうけられる。  長らく物語の創作をつづける者にとって、エピソードのアイディアが枯渇するということは死活問題にほかならない。とくに二番煎じやマンネリ化には甘んじず、独自性や新しさなどを重んじる創作者にとっては。ストーリーにかんして、いつかは誰しもかならずぶつかる避けられない障壁だろう。それで乗り越えるためによくつかわれる手が、ジャンル変更であったりキャラクター依存であったりするというわけだ。  くわえて、ショートショートや短篇ではせいぜいひとつふたつのエピソードを用意すればよいが、長篇となるとそうはいかない。ある程度の長さをたもち、しかも読者の興味をしっかり維持したままとなると、もちろん緩急をつけた起承転結はあるにしても、エピソードをいくつも立て続けに連結して綴っていくこと、その筆力が必然的に要請される。  この作者の場合、人物造形のたくみさ丹念さ、キャラ同士の関係性の深さ複雑さ、そういったキャラクターの魅力やキャラクター性のゆたかさから附随して生みだされるエピソードの数々が物語を駆動する。そのため、主要キャラはいずれもユニークで、生き生きとしていて、存在感にとんでいる。しかし物語の主題となる特殊な設定や世界観などもそのほとんどが、キャラクターの付属物的な、ようはかんたんにいってキャラクターありきでしかない。ゆえに、せっかく深く掘り下げることができそうなところでも話は意外とあっさり終わり、広く次へつながっていきそうでいかない。もったいない、惜しいとおもわせるときがある。  このたびの創作上の冒険は、キャラクター以外の力でストーリーを駆動するための実験だったともいえるかもしれない。『天使のささやき』では、微妙に相互に話がリンクしながらも、一話完結型の形式で毎回かぎられた登場人物だけ。メインのキャラもいつも変え、全編とおしての主人公は特定の個人や天使というよりはむしろ天使という存在(、、、、、、、)そのもの、生きつづける者と幽体とのあいだにときおりあらわれるとされる「想いの糸」という世界設定じたいであるかのようだ。  いっぽう『ひそむ悪鬼』では、短篇の分量を越える長さであるにもかかわらず、主要キャラはわずか数人と少なく、また主人公ですらこまかい人物描写はほとんどない。必要としない。過去と現在という時間軸の前後を自在に移動し、絡ませ、操ることで恐怖感だけでなく、ストーリーを増長させることに成功している。  どちらの作品も、キャラクターよりもプロット、より正しくいうと、作者がいよいよ本格的にプロット構想のほうにもキャラクター造形とおなじくらい力を入れはじめたことを感じさせる。たぶんプロットのさらなるパワーアップが、アナロジー的な創造性をも新たにもたらしたのだ。
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