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第三回 有名無実化した「本格」
もはや半ば伝説化しているほどの傑作であるデビュー作『占星術殺人事件』と、つづく『斜め屋敷の犯罪』などで最初期から実作においてもインパクトを与え、また綾辻行人、歌野晶午、法月綸太郎、我孫子武丸をはじめとしてミステリーシーンにいまや欠かせない存在になる才能を世に放つのに一役買ったことでも有名な、いまだ創作にも新人発掘にも意欲的な作家島田荘司が、さらに後進に決定的な影響を与えることになる『本格ミステリー宣言』という挑発的な批評書を刊行したのは、時代の大きな変わり目であった1989年のことだ。
島田荘司の「本格ミステリー論」の核心的な部分への検討に入る前に、それが書かれた経緯、あるいは書かれなければならなかった当時の背景を、ある程度説明しておく必要がある。新本格ムーヴメントが勃興したその前後の事情をまったく知らない世代の読者もいるだろうし、のちの議論にも関係する重要な問題をもふくむので、以下に簡単にだがその当時の状況が多少なりとも把握できるよう、証言をいくつか拾ってみる。
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