カメになりたい

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僕は目を離せなかった。いつも京急横浜で降りる君。と言ってみたいものだ。 実際のところ目を離せないどころか窓の景色を見るふりをし僅かな視界に入る彼女を追うというだけでじっと見る事さえままならなかった。悔しい。 ああ、いつもキラキラした何かを纏っているような光の君よ。 こんな事を言ってしまっている時点で僕はもうただ変なヤツでしかない。悲しい。奇跡でも起きないものだろうか。 例えば彼女の傍らからハンカチがはらりと落ちて僕がそれを拾う。ああ、ダメだ。僕は声をそれでもかけることが出来ないだろう。「お嬢さん」なんてとても言えない。そもそもお嬢さんって呼び掛け方がなんだか古い。そんな呼び掛け方じゃダメだ。奇跡も起こし損の奴の前では起こさない事にしているらしい。僕も奇跡だったらそうするだろう。至極真っ当な選択だと思った。と同時に途方もなく落ち込んだ。 そんな事を考えているうちに電車を降りて行ってしまう、気がして。
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