第1章

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京急品川駅では、プラットホームのコンクリートの床に列をなして埋め込まれた赤いLEDが流れるように点滅し、乗客たちにもうすぐやってくる下り特急電車への注意を喚起している。 「まもなく金沢文庫行き特急、最終列車がまいります。危険ですので白線の内側にお下がりください」 最終電車到着のアナウンスにしてはがなり立てず、事務的で落ち着いたいいアナウンスだった。 それは6月、南から吹く夜風は初夏を思わせるほど暖かく、湿った髪が洗われるようで心地よかった。 それが、帽子をかぶり制服姿でアナウンスをする駅員の気持ちを、少し和らげたのかもしれない。 しかし悦は少し飲みすぎていた。 息苦しいネクタイを緩め、シャツのボタンを一つはずし、すっかりくたびれたスーツを着ていた。
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