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「ひっ」
小さな悲鳴が勝手に自分の口から漏れ、とっさに手紙を投げ捨てた。恐怖というより肌が粟立つような気持ち悪さを感じて。
一文字ずつ丁寧に書かれたその手紙は溢れ出る想いを書きとめた……なんて可愛い物ではなくて、真っ黒に塗り潰されているんじゃないかと思うほど、ビッシリ私への愛が書き込まれていた。
「なに……これ」
部屋の床に舞い落ちた手紙を、怯え眼で眺める。到底、遠目では手紙に見えない。
「ストーカー?」
確かに最近、視線を感じる事がよくあった。でも気にとめてなかった。だって気のせいだろうと思っていたから。あれは気のせいなんかじゃなかったらしい。
私はストーカーについて、心当たりがないか思い出そうとする。最近までこんな事なかったんだ。きっかけがあったはず。
「……なんなの、もう」
心当たりなんてない。最近別れた彼氏がいるわけでもない、告白してきた人もいない。
「完全に正体不明」
背筋がゾクゾクとする。これはヤバイ。
「ハァハァ」
呼吸が浅くなる。落ち着いて。平常心を保たないと。
「仕事……行かなくちゃ」
部屋で一人より、仕事場の方がよほど安心できるかもしれない。
私は出かけられる最低限の身だしなみを素早く整え、マンションの部屋を出る。足早に共用玄関までやってくると、備え付けてある郵便受けだけ開けて、仕事場に向かった。
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