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私は仕事に夢中になった。今朝の事を忘れるために。でも夢中になればそれだけ、時間が経つのが早いわけで。
「帰ってきてしまった」
辺りはまだ明るい。暗くなる前に帰ってきたのだ。それでもマンションの前に立つと嫌でも朝の出来事が頭をかすめる。
「はぁ」
正面玄関に入ると、私は郵便受けに手を伸ばした。また手紙が入っているのではないか。そう思うとただのフタがとても重く感じる。
「吉永さん、どうも」
「あっ、土井さん、こんにちは」
正面玄関にいつの間にかお隣さんが入ってきていた。
「どうしましたか、郵便受けの前で固まって」
「あっ、すみません」
私は邪魔してはいけないと、郵便受けを開けて中に入っているものを取り出すと、その場から避ける。
「あっ、すいません、そんなつもりじゃ」
「いえいえっ」
申し訳なさそうに土井さんが微笑む。私も返すように微笑んだ。
「あれ? それ……手紙?」
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