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「今度の土曜日はお天気がいいみたいだから、お弁当持ってピクニックに行かない? 車で家まで迎えに来てくれたら助かるんだけど」
4回目のデートをキャンセルしたくなくて、無い知恵を絞ったのがこの作戦。
もう1か月近くもハルに会えなくて、会いたくて仕方なかった。
「やっと会えるのは嬉しいけど、弁当作るの大変だろ? ヒナ、病み上がりなんだし、ピクニックなんて無理しないで俺の家でまったりして過ごさない?」
「全然平気! もうすっかり元気になったし。ほら、私たちピクニックしたことないでしょ? ビニールシートにゴロンと寝そべるだけだから疲れないよ」
ちょっとムキになりすぎたかと思ったけど、ハルはそれならと納得してくれた。
そして、デート当日の朝。
家まで迎えに来てくれたハルに、うちの母は頬を赤らめながら自慢していた。
「いつ見ても、陽輝くんはカッコいいわね。あ、安心してね。今日のお弁当はほとんど私が作ったから」
「私だって卵焼き作ったもん」
母親と張り合ってどうする……。
「あ、弟さん、ご愁傷さまでした。お悔やみ申し上げます」
「はい?」
「ご丁寧にどうも。じゃあ、行ってきます!」
ポカンと口を開けた母が下手なことを言う前に、私は車に乗り込んだ。
「ヒナ?」
運転席から訝し気にハルが顔を覗いてきた。ちょっと挙動不審だったかも。
「あ、お母さんね、まだ思い出すと辛いみたいだから」
辛いも何も弟なんていないんだけど。
「そうか。じゃあ、出発」
なんとか嘘がバレずにすんでホッと息を吐いた私を、ハルが暗い顔で見ていたことなんて気づかなかった。
「この黒いのは……」
お重を開けたハルは私の作った卵焼きを見て絶句した。
「焦げたんじゃないの! 黒ゴマを入れたの!」
確かに見た目は悪い。こんなはずじゃなかったのに。
「黒ゴマ? あ、ホントだ」
それでも、真っ先に卵焼きを食べてくれたハルに私への愛を感じてフフッと頬が緩んだ。
「卵液を流し込んでゴマ振って巻いて、卵液入れてゴマ振って巻いて」
ジェスチャーで工程を説明すると、ハルが「え⁉」と驚きの声を上げた。
「卵液に黒ゴマを混ぜたんじゃないの?」
「………」
「……思いつかなかったんだね?」
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