心変わり

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私の髪を撫でる羽生さんの腕にぶら下がったような自分の両手を慌てて下ろした。 「ハル? どうして?」 「随分早かったね。トラブルは? 解決した?」 ハルの目も声も冷たい。それはそうだ。夜中になりそうだと言っていた私が定時に上がって出てきたんだから。 「うん」 泣きそうになりながら俯いた。嘘がバレた。白を切り通す? どうしよう。 「陽菜? 大丈夫か?」 羽生さんが私の肩に触れたと思ったら、次の瞬間、私はハルの胸の中にいた。 「気安く触らないで下さい。俺の女です」 ハルの心臓の音が速い。でも、それ以上に私の方が速かった。 「ふーん。陽菜?」 「大丈夫です」 ハルに抱き締められたまま、羽生さんの心配そうな声に答えると、じゃあなと言って羽生さんは去って行った。 「陽菜、陽菜って恋人みたいに呼びやがって」 ハルの呟きでまた心臓が悲鳴を上げる。 「ハル?」 ハルの腕から出ようと身じろぎしても、更に強く抱き締められただけだった。 「もうちょっとこうしてて」 ハルの心音と私の心音がシンクロする。 「ヒナ、もう俺のことを好きじゃなくなった?」 「え⁉」 ハルの顔を見上げようとしたけど、ギュッと抱きしめたハルがそれを許してくれなかった。 「会えるのに会ってくれないのは、他に好きな奴が出来たから?」 こんな辛そうなハルの声を初めて聞いた。 「違う。今日は」 「今日だけじゃない。ずっとだ。俺が気づかないと思ってた? ヒナのことなら、どんなささいな変化もわかるんだ。最初は俺が焦り過ぎたから警戒されたのかと思ったけど、そうじゃないんだろ? ピクニックのときだって、ずっと後ろめたいような顔をしてた。さっきの男? あいつに惚れた?」 「違うの。ハル、ごめんなさい。本当にごめんなさい」 ハルに抱かれたまま泣きじゃくる私に、彼の切ない声が降ってきた。 「嫌だ。ヒナは誰にも渡さない。絶対に離さないからな」 「ハル、ハルが好きだよ。世界で一番ハルが好き。こんな愛してるんだもん。他の人なんか目に入らないよ」 「え⁉」 ようやくハルと目が合った。安堵と喜びの表情がハルの顔に浮かんでくる。 「じゃあ、なんで?」 「合鍵なくしちゃったの」 「は?」
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