なくしたもの

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ハルはすごく真面目な人で、イケメンにありがちな遊び慣れた感じがなかった。 食事をしていても面白い話をして笑わせるようなこともなく、お天気の話や気になったニュースの話とか仕事の話をするだけ。 食事が終わるとまっすぐ家まで送ってくれる。期待したような甘い雰囲気にはならないけれど一緒にいると楽しかった。 月に1~2回会うお食事友達だった私たちの関係が変わったのは、出会ってから半年ぐらい経ったある日のことだった。 「実は今日は俺の誕生日なんだ」 そう切り出したハルに私は口を尖らせた。 「前もって言ってくれたらプレゼント用意したのに。今から一緒に買いに行こう? 何が欲しい?」 お財布の中身をちょっと心配しながら尋ねた私に、ハルはためらいがちに口を開いた。 「槙田陽菜さんの隣にいる権利をくれませんか? 俺と付き合って下さい」 「え⁉ 神崎さんならいくらでも素敵な女性と付き合えるのに。私みたいながさつでだらしない女なんかじゃなく」 「君がいいんだ。実はずっと前から毎朝駅で君を見ていた。なりふり構わず全力疾走する姿に惚れたんだ」 「それは……変わったご趣味で……」 「ぶつかったのは2回ともわざとだった。ゴメン。どうしてもきっかけがほしかったんだ。1回目にぶつかった後、君をいつもの時間に見かけなくなって焦った。もう会えないんじゃないかと思って。だから、2回目にぶつかったあの日は始発から待ち伏せしてたんだ」 「えっと。そこまでしてもらったのに、こんな女ですみません」 「槙田さんは思った通りのかわいい女性だったよ。飾り気がなくて素直で明るくて、一緒にいると嘘みたいに幸せになれる。だから、俺と付き合ってくれませんか? こんな面白みのない男だけど、君を想う気持ちは誰にも負けない自信があるから」 感激した私が抱きついて、彼は泣き出しそうなぐらい喜んで、2人の交際はスタートした。 今まではケンカらしいケンカもなく順調だったのに。
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