心変わり

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「今度は俺の家に来てよ。週末じゃなくても会社帰りに寄ってくれれば少しは会えるし、車で送っていけるから遅くならないだろ?」 少し早口のハルの言葉にギクッとした。 来た、来た、来ましたよ。『合鍵使って家に入って待ってて』攻撃だ。 入りたくても入れないんだから、絶対に不可能なんだ。 せいぜいマンションのオートロックの前でハルを待ってて、「あ、私も今来たところ」と言って一緒に入るのが関の山。 それだって「合鍵使ってみなよ」と言われたらアウトだ。 でも、そんなことはおくびにも出さないで、「そうだね」と私は微笑んだ。 日が傾いて来ると、ハルはすぐにビニールシートを畳んで帰り支度を始めた。 まだ夕方だ。これからハルの家に誘われたらどうする? 「合鍵使ってみなよ」って言われたら? 「まだ時間早いから……俺の家に行こうか」 予想通りハンドルに手を置くと、ハルはこっちを探るように見てきた。 もしかして鍵を失くしたこと、気づかれてる? いやいや、そんなわけない。 「えっと」 動揺した私は答えに詰まった。 そんな私をチラッと見て、ハルは自分のおでこに手を当てた。 ハルが失敗したなと思った時にする仕草だ。 「ごめん。今日は朝早くから弁当作って疲れたよな。もう帰ろう」 「うん」 早起きしてお弁当を作ったのは、私じゃなくて母だけど……。 危険は早めに回避しておくに限る。 滑らかに走り出した車の中で、いつまでこんな誤魔化しを続けられるだろうかと考えていた。 ハルに怪しまれる前に早く見つけないと。 先週は自分の部屋だけじゃなく家中を探し回った。 明日はこっそり姉の部屋を探索するか。「あんたに陽輝くんはもったいない」と言い続けている姉が嫌がらせで隠したとは思いたくないけど。 ああ、だんだん嫌な女になっていく。嘘ついたり人を疑ったり。 いっそ正直に話して謝ろうか。優しいハルのことだから、一緒に探してくれるかもしれない。
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