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ああだ、こうだ言われて更新制度はお蔵入りとなり、それから20年が過ぎた。相変わらず医師免許は「取ってしまえばこっちのもの」であり、また20年という歳月が完璧なる少子高齢社会を構築し、70歳80歳90歳100歳の現役医師も珍しくなくなった。 「先生、わたし最近、物忘れがひどくなってきたようなんです」 「ほうほう、それはいつぐらいからかね?」 「ええと、そうですねえ……いつぐらいからだったかしら?」 「それで、今日はどうされました?」 こんなベタなコントのような会話が、実際診察室のなかで繰り広げられているのである。 医者の平均年齢が67歳という医局を抱えた禍尾栖(かおす)大学医学部部長、藍膳(あいぜん)教授は、さすがに危機感を募らせていた。藍膳教授自身も、今年65歳になる。医者でなければ定年を迎える年齢である。さすがに体力の衰えや記憶力の低下、次々見つかる生活習慣病に嫌でも己の年齢を自覚させられるのだが、しかし自分は医者だ。自分が引退を表明し続けるまで医者なのだ。
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