見えない彼女

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新宿駅。 お昼時で人の集団に揉まれていた康太にとってホームにつながる階段の数は多すぎた。 芹菜は混雑していようがいまいが新宿駅は大好きだとSNSに公言していた。 駅マニアなのだ。 康太は彼女にどうして好きなのかと聞いたことがある。 彼女はこう言った。 電車もホームもそこにいる人も好き。特に人は駅で立っていればどんな悪人でも好意的に見えるの。 康太はよくわからなかった。 マニアにはわかると思ったが、面倒なので適当に聞き流してしまった。 早く階段亡くなれ! 前で上っているサラリーマンのケツを吹っ飛ばしたくなった。 どけどけどけえ! 暑くて重たい空気が波のように襲ってきた。 康太は呟いた。 芹菜、芹菜、芹菜 身長が超人的だったら人差し指で目星をつけられるのに。 母親の命令通り、牛乳一リットル飲んでおけばよかった。 康太はそんな子供じみた後悔を一瞬だけ心の中に抱いた。 アナウンスがうるさい。 毒ガスを浴びせられている気分だ。 康太は気が遠くなりそうだったが彼女を必死で探し続けた。 人がホームからいなくなるまで。
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