見えない彼女

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店員は納得したようだ。 康太はメガネをかけた胡散臭い男に唾を吐きたくなった。 あまりにも醜い。 ああ極上の醜い顔に犯される。 自虐的な妄想で芹菜がいなくなった悲しみの傷を慰めようとした。 だが探しても、駅のどこを探しても彼女は見えない。 他の場所に行くことはもうできない。 彼女ともっと一緒に過ごせばよかった。 デートをすればよかった。 もっと真剣に彼女を好きになればよかった。 絵なんか描いている暇など本当はなかったのだ。 架空の彼女をあまりにも愛しすぎた。 描いていたのは彼女の影だったに違いない。 真っ黒な彼女。 白いきめ細やかな肌を空気の重々しさが充満した現実に突き出していた彼女を見ていなかった。 白くて明るかったのにどうしてそれに十分な答えをあげなかったんだ。 向き合おうとしなかったんだ。 最後に体を交えた時はいつだった。 君の姿を描くよと宣言した日だ。 それからは一度も彼女にSNSで返事を打っていない。 これも所詮架空の人間関係しか築けない道具なのかもしれない。 もしくは人間関係の紐を切るカッターナイフか。 違う。 そうじゃない。 描き始めてどれくらい経った。 一週間か。 四日か。 いったい何日だ! くそ! 思い出せない。 「どこにいるんだ。俺の前に一度でいいから姿を見せてくれ。お前が見たい。お前に触れたい。あの絵は諦めるよ。完成なんかしなくていい。俺が悪かった。離れないから、離れないからやり直させてくれ」 康太はそう叫んで狂乱した。 暴れまわり、この警官二人と喧嘩になった。 彼女を想いながら戦ったが勝負の軍配は彼には上がらなかった。 両足の骨を棍棒で粉砕されて牢屋にぶち込まれた。 それでも猛獣を思わせるわめきは交番の外には伝わらない。 少なくとも見えない彼女には。
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