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「でも、どうして? これは、夢だよね?」
「一気に質問しないでよ。もう、これからはいっぱい話せるんだよ。ゆっくり話すよ。まず、これは夢じゃないよ。それでね、神様が僕に人の言葉を話せるようにしてくれたんだよ」
「ほんと! じゃあ、ジェンとずっとずっと一緒にいられるんだね!」
きっと、昨日の僕の願いを叶えてくれたんだ。どうして叶えてくれたかとかはどうだっていい。とにかく、ありがとう。僕は空に思いを乗せた。
「そうだよ! でもね、ひとつだけ大事なことがあるの」
「なになに?」
「それはね、僕が水族館に戻ったらまた話せなくなってしまうんだよ」
「じゃあ、戻らなければいいんだね!」
「でも、大人の人に見つかったら、水族館に連れ戻されちゃう……」
「分かった。僕は君を隠してあげるよ」
「ありがとう、タケル君」
せっかく、大好きなジェンとお話できるようになったのに、それができなくなるなんて嫌だ。僕は、ジェンを隠せる良い場所はないかあれこれ考えをめぐらせる。それでも、誰かに自慢することができないのは残念だ。
僕の部屋は、お母さんに見つかってしまう。学校は、先生に見つかってしまう。公園は、いつもゴミ拾いをしているヤマダのおじさんに見つかってしまう。
一体、どこにジェンを隠せばいいのだろうか。とりあえず、一度家に帰ることにした。あまり帰りが遅くなるとお母さんに心配をかけさせてしまう。
「行こう、ジェン」
僕が歩き出すと、ジェンはよちよちと歩き始めた。かわいい。でも、遅い。これでは、帰る途中で誰かに見つかってしまうかもしれない。僕は、ジェンをランドセルに入れて運ぶことにした。ふたが奇妙に浮いているけれど仕方ない。
「すごいね、タケル君は歩くのが速いや!」
「へへ、そんなことないよ」
生まれて初めて速いと言われ、誇らしい気持ちになった。
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