空っぽだったあの日

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「私は、かつて自殺を考えて立山に登った事があります。 その時の私は、仕事も、恋人も、親友も、なにより生きる希望をなくしていました。 しかしその時に、ライチョウと、当時の山荘の女将に助けられました。 そして、見上げた景色のなんと美しいこと。 同じ景色をさっきまで観ていたのに、私は気付けませんでした。 わかりますか? では、もっとわかりやすく。 皆様は、毎日同じ景色を見ている事が多いはずです。 家を出るとき、 会社や学校の窓から、 様々な場所で、同じ景色を見るはずです。 でも、その景色をパッと思い出せますか? 中々思い出せないでしょう。 それは、視ようと意識しないからです。 意識してください。 色んなものに目を向けてください。 自分が嫌なものも、背けずに見てください。 そうすれば、きっとあなたは一人でないことに気付けるはずです。 そのことが分かれば、あなたはきっと変われます!」 スピーチを終えるとともに、会場は拍手に包まれた。 その中には、私の見知った顔もある。 一度は絶縁した無二の親友。 許されないと分かってても謝りに赴いた私を、彼女は、 「生きててくれて良かった」 そう言って泣きながら抱き締めてくれた。 ずっと心配してくれてた事が嬉しくて、親友の胸の中で私も涙した。 私は、仕事も、恋人も、親友もなくした。 そして、命もなくしかけた。 けれども、前を向いて進めた私には、仕事も親友も戻った。 残念ながらこの年まで未婚な私には、この先に恋人が出来る可能性がまずないのが欠点か。 それでもなにより、生きる希望に満ち溢れた私は、今が幸せだ。
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