空っぽだったあの日

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「すみません。すみません!」 「いい加減にしろ!こんな仕事も出来んのか!」 普段なら静かで、カタカタとキーボードを叩く音だけが響くオフィス。 しかし、今は課長の罵声が大音響だけが響く。 怒られてるのは私。 でも、ミスしたのは私じゃなくて、この課長。 課長に渡された資料通りに仕事をしたら、その資料が最新のものではなかったらしく、課長は大勢のお偉いさんの前で赤っ恥。 で、その八つ当たり相手が私。 入社してから、こんなことが何度続いただろう。 最初こそ、家に帰る度に泣いたけど、今ではそんな感情すらなく、ただ淡々と時が過ぎるのを待つばかり。 いや、それは今までか。 私は、かねてより計画していた逆転の切り札を切る。 「わかりました。 私はグズでのろまで、何にも出来ないダメ社員です。 だから、これ以上いても会社のお役には立てそうにありませんので、今日をもって辞めます!」 言ってやった。 あ~なんて気持ちいいのかしら。 見なさい、あのクソ課長の驚いて呆けた顔。 目を大きく開き、だらしなく半開きになった口。 そして、我に戻ってから紡がれる言葉はお決まりの……。 「む、そうか。 退職願いは後で郵送するから、もう帰っていいぞ」 ……引き留めなかったわね。 まぁ、いいわ。 どうせこんな会社に未練はないし、どのみち辞めるつもりだったから。 「はい、では失礼します!」 周りの視線を一身に浴びながら、私はオフィスをあとにした。 ーー今この瞬間、私は仕事を失った。 そして、会社を出てしばらくすると、私は彼にメールを送った。 『この前の返事、OKするね』
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