空っぽだったあの日

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その日の夜、私は交際している彼と会った。 その理由はメールに書いたとおり。 先日受けたプロポーズ。 私はそれをOKして、これからの話をするため。 待ち合わせに指定したレストランに現れた彼は、仕事帰りのせいか、少し疲れた顔をしているけれど、大丈夫。 そんなの私がこのあと癒してあげるよ! 「やぁ、遅れてごめん」 私の前の椅子に腰掛けた彼。 全然遅れてないのに謝って、私をたててくれるさりげない気遣い。 前は気にしなかったけど、あのクソ課長の後のせいか、凄いことのように思える。 「ううん、全然だよ。 それで、メールでも書いたけど……」 「すまん!」 「え?」 私が肝心の話をしようとした瞬間、椅子から飛び上がって床に両手をつけて頭を下げた彼。 その彼の行動が理解できなくて、私はただ困惑するのみ。 「他に、好きな人が出来たんだ」 「うそ……でしょ?」 彼の告白に、今度は私がクソ課長のように呆けた顔をする。 「身勝手なのは分かってる! プロポーズから少し時間が経ったからって、許されない事も! 婚約破棄の慰謝料は必ず払う! だから、ゴメン!」 そう言うと、彼はガバッと起き上がり、レストランを飛び出ていった。 残されたのは、あまりの現実の仕打ちに呆然とするしか出来ない私だけ。 ーー今日、私は仕事に引き続き、恋人も失った。
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