空っぽだったあの日

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周りを歩く人は楽しそうに風景を眺め、花を愛でる。 所詮は山の風景で、どこも一緒。 花だって、街中の雑草と一緒じゃん。 何でそんなに楽しそうに出来るのよ? お一人様じゃないから? 私みたいに絶望してないから? なら、だったら、その幸せそうな顔を一瞬で凍りつかせてあげるよ。 今、この瞬間に私が崖下に飛び降りれば、あなた達はどんな顔をするのかしらね? きっと、その笑顔が一瞬で凍りつくのでしょう。 ウフフ、それもいいわね。 いや、そうしましょう。 目線を崖下にやれば、光の届かない暗い世界が端に見える。 そう、私に相応しい闇の世界。 あそこに、あそこに私は行く……。 膝の高さしかない僅かなロープを越えようとした瞬間……。 『グァァァ!』 低い、唸るような声。 「キャッ!」 驚いて後ずさった私の前を、チョロチョロと小さな鳥が通る。 「ライチョウだ!」 他の登山者が声をあげて、カメラを構えるも、ライチョウはすぐに見えなくなった。 残念がる登山者の声が後背に聞きながら、私は腰を抜かして動けない。 これから死のうと思ったときはそんな事なかったのに。 あんなちっぽけな鳥一羽に、私の覚悟が負けた。
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