第二章   黛徹という男

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第二章   黛徹という男

AVメーカーがあるスタジオラビリンスに到着すると、足早にスタジオに向かう。 事務所の中には、監督の真下芳樹(ましたよしき)だけがいた。 真下が千秋の姿を見つけるなり、傍に寄って来た。 「千秋ちゃん、次の仕事が決まったよ!今度もネット動画だけど」 「ありがとうございます、ちょっといいですか監督?」 千秋が言うと、真下が振り向いた。 「あのう、私が出演しているサンプル動画の顔に、モザイクを掛けて貰えませんか?」 少し、真下が驚いた様子だ。 「いいよ、処理しとくよ。でも何故今になって急に?」 「いえ、ちょっと……………」 千秋が、物怖じする様に喋った。 視線を落とす、千秋を観て。 「千秋ちゃん頑張って!現在千秋ちゃんの動画やDVDが売れてるんだ。 辞めないでね」 真下がそう言って、励ましながらウインクした。 「あとで電話するから待ってて、僕はまだ編集の仕事があるから。じゃ!」 真下がそう言いながら、奥にある編集作業室へと入って行った。 取り敢えず、サンプル動画にモザイクを掛けておけば、 DVDを購入するかサイトにログインしない限り、千秋のフル動画を拝めない。 千秋が、自宅マンションに戻り電気を点けると、ハッと息を飲んだ。 それは、リビングルームのテーブル脇の椅子に、天木美佳が座っていたからだ。 「どうしたの美佳ちゃん、何かあったの?先生に話して!」 千秋がそう言いながら、美佳の頬にキスをした。 すると、美佳の瞳から一筋の涙が流れていた。 少なからず、動揺する千秋。 「どうしよう先生、大変な事になっちゃった」 弱々しく美佳が、呟く。 「これを、観て」 そう言いながら、千秋にスマホを渡す。 スマホの液晶画面に触れると、驚愕した。 画像が大量にストックされているのだが、どれも美佳の全裸画像ばかり。 慌てて千秋がノートパソコンを開き、フェイスブックを開く。 「これはどういう事! もしかしてリベンジポルノ?」 千秋の不安は、的中した。海外のネットサーバーから配信されている。 海外配信であれば全消去する事が出来ず、警察もどうする事も出来ない。 拡散中に画像を保存し、ネットにアップすればそれこそイタチごっこだ。
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