第1章     転落の始まり

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千秋と美佳の出会いは、ネットのフェイスブック。 千秋が美佳の恋愛相談に乗っているうちに、互いに会う様になっていた。 映画やアミューズメントパークへ、行ったりして愉しむ2人。 気が合うのか、肉体関係さえ持つ間柄に。 美佳とのセックス、AV女優としての男優とのセックス。 千秋の人生において、セックスレスは考えられない。 座右の銘は、貪欲なる快楽。 日頃、快楽主義こそが芸術論的思考を支える証だ。 芸術イコールセックス、千秋は異常なまでの妄想に取り憑かれていた。 大学時代の先輩から、美術大学のヌードモデルのバイトを頼まれた。 バイトにしては時給が良かったので、軽い気持ちで引き受けた のだが、今にして思えば後悔の念が脳裏を過る。 画学生は男女合わせて30人程で、みなカンヴァスの前に座っている。 千秋はバスローブを身に纏っていたが、怖くなりバスローブを脱ぐ事が出来ない。 何故なら、全員の視線が千秋の裸体に、集中していたからだ。 たじろぐ様に躊躇していると、画学生の部長が千秋にそっと近づき。 「君の芸術が観たいんだ、オーギュストルノワールの様に……………」 部長が、耳元で囁いた。 なんだか芸術という言葉に、すっかり快楽の中に没入出来る自分。 この言葉に救われた千秋は、バスローブを脱ぐ決心が出来た。 部屋の中では息を呑む様に、ひたすら沈黙を保っている。 一気にバスローブを脱ぎ捨てると、裸体に群がる視線にたじろぐ。 子羊に襲い掛かる、狼の様に。 途端に画学生の持つクロッキーが、一斉に動き出す。 だが不思議なのは、全員の視線が羞恥心を排除してくれ、 裸体を執拗に愛撫する。 「嫌らしい…………視線」 全てを舐め尽くすような快楽が、全身を包み込む。 「うぅぅ……………」 思わず、熱い吐息が漏れる。 こんな事もあるのだろうか? 心の底からの歓び。 人前で裸体を晒す行為が、これ程気持ち良いとは! 余りの、気持ち良さに。 「い…き…そ…う」 その時だった。あろうことか、千秋の大腿部に生暖かいものが触れた。 「ああ!…………失禁だ!!」 神聖なる部室に、誰かの大声が響く。 尿の雫が、一直線になって床に落ちた。
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