第1章     転落の始まり

8/9
前へ
/39ページ
次へ
20階建てのタワーマンションから、都内風景を眺める。 それも、最上階から。 城の天守閣から眺める、武将の様に。 千秋は都内の、桂木小学校で音楽教師だし 臨時だったが、それ程待遇に不満は無い。 しかし、快楽主義者千秋にとっては、教師という立場はなんとなく物足りない。 そういう日々が続いていたある日、千秋が学校に到着した瞬間、 何か得体の知れない違和感を持つ…………虫の知らせだろうか。 直後に職員室に入った所、ピリピリとした空気感が。 他の職員達が何気にザワついていて、互いにヒソヒソと話し込んでいる様子だ。 「千秋先生!」 後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには佐間山剛(さまやまたけし) 教頭が立っている。 佐間山が、千秋にピツタリと寄り添い。 「千秋先生にそっくりなAV女優が出演していますが、この女優は 千秋先生とは違いますよねぇ」 教頭が、千秋にスマホのディスプレイを見せつけ、ニヤリと笑うと なんだかキモい。 確かに教頭の言う通り千秋のAVだったが、素直に肯定する訳には。 「違います、私ではありません!」 キッパリと、否定した千秋。 声が大きかったのか、周リの教師達も一斉に千秋を観る。 「でしょうね、我が校にこんな不埒な職員が…………」 佐間山が、白いハンカチで額を拭きながら、苦笑した。 そこに生活指導の、凪和朋子(なぎわともこ)先生がやって来て。 「千秋先生、校長がお呼びよ。校長室までお願いね」 「はい!」 千秋がそう返事をすると、何食わぬ顔でその場を離れた。 ピンと張り詰めた空気感だったので、凪和に救われた千秋。 校長室のドアを軽くノックし、中へと入る。 まず目につくのは、威厳を放つ様な歴代校長の壁に並べられた写真だ。 その真下に、南雲轟(なぐもとどろき)校長が、椅子に腰掛けている。 南雲の頭部はかなり薄いが、恰幅があり威厳さえも持ち合わせている。 校長のデスクの前に立つ、千秋。 「千秋先生、先程も佐間山教頭から訊いたと思いますが、実は この学校に匿名の電話があって、君がネットの無修正動画サイトに、 女優として出演していると…………。 先生、これを観て下さい!」 校長がノートパソコンを取り出し、ディスプレイを千秋に向けた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加