第1章     転落の始まり

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それから暫くして千秋が職員室に戻った所、他の教員達の視線が鋭く突き刺さる。 虚偽だと分かっていても、しらを切るしか無い。 「女の武器を、使いやがって!」 陰口にしどろもどろになりながらも、自分のデスクに戻ると、 そこに、凪和朋子(なぎわともこ)先生がやって来た。 思わず、ビクッとする千秋。 「千秋先生、色々噂になってるけど、気にしないで」 千秋の耳元で囁く様に、凪和がポンと千秋の肩を軽く叩いた。 凪和朋子は、教師生活25年のベテランだ。 今年53歳になるが、いまだに独身で両親と暮らしている。 黒縁のメガネを掛け、全体的に太り気味である為、男性は1人も寄って来ない。 見向きもされない女、この事実が非常に強いコンプレックスになっていた。 そんな凪和にも、思いがけないチャンスがやって来る。 20代前半の頃、街中を歩いていた時にスカウトされたのだ。 アイドル事務所のスカウトマンだったが、凪和もその気になり スカウトマンと一緒に、事務所に赴く。 連れて行かれた事務所で契約させられたのだが、アイドルでは無く AV孃だったのである。 初めは断っていたが、無理矢理契約させられ、その日のうちに現場に連れて行かれた。 ハードなセックスを強要され、酷い目に合ってしまったのだ。 すぐ様母親に付き添われ、警察に被害届けを出すと、 スカウトマンと事務所社長が逮捕された。 この時以来、凪和は男性不信に陥り、異性に対して恐怖を抱く様になってしまう。 容疑者が逮捕されても、凪和のビデオは市場に流通してしまい、 かなりの速さで世間に噂が拡がる結果となってしまったのだ。 当時の痛い思い出が、つい千秋を擁護してしまう原因である。 咄嗟に千秋は学校を早退し、帰りに誰にも気づかれぬようタクシーで、 AVメーカー(スタジオラビリンス)へと向かった。
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