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雨は私の肌を貫く様に降り続く。
何も考えずにただ歩く。すると、行き着いた先は森。執事と最初に出会った場所だ。
「この木の下に居たんだ。あいつは」
木の下であいつは腹を空かせて死にかけていた。私の持っていたパンを渡すと凄い勢いだったな。
そしてあいつは図々しくついて来て、私の館の執事になっていた。
私と友人だけの静かな空間は、あいつの介入で騒がしい空間になっていたな。
やっと落ち着いた生活が出来る。
そう自分に言い聞かせるが、何故だか視界がボヤけ始めた。
「雨が目に入るな」
きっとこの震えも雨が冷たいからだろう。
下を向くと、1つの墓が目に入る。そこには少しの花と、1つのパンが置いてあった。
「……そうだったな」
あいつの名前は私が付けた。そうだった。特に考えずに付けた名前をお前は気に入っていたな。
あいつを想うと胸が苦しくなる。涙が溢れる。体が震える。
全部あいつのせいだな。そんな執事は叱らなければ。
震える唇を開いて私の想いを叫ぶ。
「ーーーーーーー!」
きっとこの言葉は届かないだろう。この雨の音では声が届かない。
返事はやはりない。でも覚悟は決めた。
あいつが最後まで居てくれたあの館をずっと守って行こう。あそこには思い出が出来すぎた。
「お嬢様」
ふっと、懐かしきあの声が聞こえる。だけどもう振り返らない。
帰り道の途中、人間の子供が倒れていた。
「おい起きろ。風邪を引くぞ」
痩せ細った少年は顔を上げて私の顔を見た。
「来い少年。君を二代目の執事にしてやる」
「執事……?」
「そうだ。そして君の名前は」
こうしてまた、人間との可笑しな生活が始まる。
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