それじゃあ…

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それじゃあ…

 視界が暗転し、私の意識は失われた。 そう感じた自分に、ふと気付き、おかしいな?と首を捻った。 目の前には黒色だけの世界。 広いのか狭いのかも分からない。 辺りを見渡す。 右、左、前、後ろ。 上も下も見たけど、どこもかしこも闇。 「私…一体…」 その闇の中、私はこうなる前に見たものを思い出そうと記憶を辿った。 私の部屋。 ボロボロの卒業アルバム。 ハサミ。 携帯電話。 ……携帯…電話……。 ハッとして手を見るが、そこには闇。 自分の手さえ、見えない。 ……手。 そう。 携帯電話から、手が出てきて、私は視界を塞がれて…。 彼女が…来たのね。 そっか…。 彼女は私を迎えに…。 じゃあ、ここは…死後の世界? 私、死んじゃったの? なんだ…。 あっけないなぁ…。 怖かったけど、痛くもなかったし、死ぬのって、こんなものなのね。 …あ。 彼女は…どこ? 私を連れてきた彼女はどこなの? もう、お互い死んだんだから、隠れて「わっ!」なんてしなくていいのに。  私は闇に向かって彼女の名前を呼んだ。 「もういいわよー!今さら脅かさなくもさー!」 そう言えば、生きてた時も、たまに後ろから「わっ!」とか……彼女、よくやってたわね。 「どこ~?どこにいるの~?」 我ながら死んだというのに普通すぎて笑えてくる。 しかし、彼女は応えなかった。 闇は動かず、闇に動く誰かがいるわけでもなかった。 「ちょっとぉ…」 段々、私は不安になっていた。 一人ぼっち。 彼女に迎えられ、せっかく死んだというのに、死んでまで一人ぼっちになるなんて。 「もう…」 それでも私は自分が死んだ事で少なくとも恐怖はなかった。 キーーーーンッ!! 溜め息を漏らしていると、突然耳鳴りがし、割れるような頭痛が襲いかかってきた。 「な?!なに、これ?!い、痛い……うぅ……!!」 あまりの痛みに私は頭を抱え、ギュッと目を閉じる。 瞼を閉じても、当然、そこには闇しかない。 はずだった。 「く…いたぃ……え?!」 瞼を閉じた私は耳鳴りと頭痛に苦しみながらも見た。 そこは闇。 だけど、なにも見えない闇じゃなかった。 星が……見える。 月も……見える。 頬に風が当たるのが分かる。 瞼に映る風景には、闇以外のものがあった。 そして、その映像は勝手に空から下へと動き、白い手と、その手に握られた携帯電話を映した。 見覚えある携帯電話。 それは、彼女の物だった。
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