会いたかった

6/12
前へ
/45ページ
次へ
 朝、携帯電話のメールを読んで私はその電源を切った。 ここまで頻繁にメールが来ると、本当に彼女は死んだのかさえ分からなくなりそう。 それでも、私は彼女の通夜にも出向いた。 それに、昨日の出来事は生きた人間に出来る事とは思えない。 耳を澄ましても、あのノイズ音は聞こえない。 瞼を閉じても、開けても、聞こえない。 仮死状態になった携帯電話をテーブルに置き、他に何も手のつかない私は考えるだけで時間を費やす。  さすがに電源を切ってしまえばメールは来ない。 もしかすると来てるのかも知れないけど、それを確かめる勇気はない。 今は沈黙した携帯電話。 それよりも私は、また彼女が瞼に、そして目の前に現れるんじゃないかと怯えた。 彼女はノイズ音と共に現れる。 耳を澄まし、それが聞こえはしないかと気を弛める事ができない。 気晴らしに音楽でも。 そう思いCDを手にしたけど、今度はコンポのスピーカーから聞こえてきそうでやめておいた。 何もやる事がない。 何もできない。 だけど、ひたすらに暑い部屋にはいられず、私はウチで唯一クーラーのあるリビングに向かった。  また今日もソファの上でクッションを抱える。 閉めた窓が気になる。 昨日は確かにガタガタと鳴り、バンバン叩かれ、そのたびに窓には赤い液体が飛び散っていた。 今、見ても、そんな形跡なんてない。 ここに来る途中、階段を降りた先の玄関にも、指なんて落ちてなかった。 このまま、何も起こらなければいいな。 そんな事を考えながらテレビのリモコンを手にした。 「………」 やめておこう。 昔、有名なホラー映画で恨めしそうな女がテレビから出てくるのを見た事がある。 厳密には井戸から…だけど。 リモコンを置き、溜め息。 何もやる事がない。 何もやる気にならない。 ああ、宿題しなきゃ…。 今年の花火大会は…どうしようかな? 一人…ぼっち。 一人ぼっちは…嫌。 また一人ぼっちになっちゃった…。 …そっか。 彼女も、一人ぼっち…なのよね。 …だから? もしかして、だから私を迎えに来たの? 一人ぼっちは嫌だから。 彼女も、私も、一人ぼっちにはなりたくないから。 『あらゆる不安』 今なら少しだけ彼女の気持ち…分かるかも。 二学期が始まったら、私、一人ぼっちなのよね。 不安…。 その逃げ道は…彼女が選んだ道しかないのかも知れないわね…。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

258人が本棚に入れています
本棚に追加