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少しずつ彼女の気持ちが分かってきた。
彼女がどうして自殺したのかも。
死にたい。
そう思ったから死んだ。
ただそれだけのこと。
死にたい。
そう思ったことのない人は幸せ。
そう思いながらも生きてくの苦痛。
生きてさえいればいい。
そう言う人もいる。
だけど、そう言われ、それを信じてみても裏切られる。
ただ生きてるだけじゃダメと、みんな、そんな目を、態度をする。
矛盾。
そこにあるのは建前としての美学から口にされるエールと、結局は取り柄もなければ存在価値を見い出せない現実社会がある。
矛盾。
その矛盾が不安を生む。
夢よ、愛よ、希望よ……あたかも綺麗な言葉は飾り付けられ、無力さ、不器用さ、ふがいなさは醜悪なものとして拒まれる。
彼女は、そんな世界が嫌になったのかも知れない。
あらゆる不安……そこから逃げる道を探した末に辿り着いたのが、真夜中の学校。そして、その校舎の屋上だった。
「私だって、ね…」
ノソリと立ち上がり、私はここにはいない彼女に声をかけた。
「死にたいとか、考えたこと……あるわよ」
ゆっくりと階段を上がり、部屋の中へ。
「毎日…毎日…」
そこにある本棚の隅、目につかないように立掛けた書物を引っ張り出す。
「毎日…毎日…毎日…」
それを広げると、学生服とセーラー服の集団がいる。
「毎日…毎日…毎日…コイツと…コイツと…コイツも…コイツに…」
それを床に広げたまま、私は机からハサミを手にし逆手に握りしめた。
そして、振り下ろす。
「コイツと!コイツと!コイツと!コイツ…コイツも!みんな…みんな…みんなしてっ!!」
何度も振り上げ、何度も振り下ろす。
ザグッ!
ザッ!
ザクッ!
ハサミの刃は床に置いたページに何度も突き刺さり、そのたびに学生服がセーラー服が、その頭が、その顔がボロボロになっていく。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
息が上がる。
「…コイツ…もぉぉっっ!!」
最後の一振り。
今まで以上にハサミを高く上げ、私は力いっぱい刃を突き刺した。ザグッ!!
「っ!?」
ハサミは突き刺さり、垂直に立った。
「…たかった…」
私はハサミから手を離し、ボロボロの書物の前で膝を抱えた。
「死に…った…」
突き刺さされ立つハサミ。
それに顔を貫かれたのは――セーラー服を着た、私。
「死にたかった…ずっと…」
ボロボロの書物、中学の卒業アルバム。
忘れたい過去。
死にたくなるほど嫌な記憶。
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