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私が今見ているものは…何?
闇の中、瞼を閉じた先に広がった風景。
まるで目だけになったような感覚。
そこは闇……ううん、夜だった。
白い手が携帯電話を開き、メールを打つ。
『今からね』
件名にそう並ぶ。
これは…あの日、私に届いた彼女からのメール?
本文が打たれ、指が送信ボタンを押そうと動く。
「…はぁ」
しかし、その指が止まり溜め息が聞こえた。
「何…やってんだろ…私」
この声は…彼女。
視界が動き、足下を映す。
『?!』
そこには暗い闇があった。
私は今、どこか建物の屋上に立っている。
どこかの建物…?
彼女の声…彼女の手、携帯電話。
『もしかして…これって…』
それは彼女が自殺する寸前の映像だった。
それを私は、まるで彼女の体に憑依したように体験している。
「ここまで来たのに…」
あと一歩踏み出せば、体は地面に向かって落ちるだろう。
そんなギリギリに立つ彼女はポツリポツリと独り言をもらす。
「私、本当に死にたいの…かな」
『そんなワケない!!』
私は叫んだ。
いや、そのつもりだった。
「死ぬ理由なんて…ないかも」
『ないわよ…そんなもの…あるわけ…ないじゃない…』
私の声は彼女には届かない。
それでも私は語り続けた。
「彼氏でもいたら、こんな気持ちにもならなかったかもね」
『あはは…かもね。だからさ、だから、これから彼氏…作ろ?どっちが先に作れるか、競争しない?』
「私ね…好きな人、いるんだ」
私の言葉は聞こえてないはずなのに、いつの間にか彼女は、あたかも私と会話するように声を弾ませた。
「ねぇ?先生って…どう思う?」
『先生?先生って担任の…』
ふと、彼女が自殺した後、生徒指導室で見た担任の姿を思い出した。
「ああいう熱血な人って好きなのよね。大人だけど、子供みたいで」
『そう…ね。先生、泣いてたよ?あなたが死んで…泣いてたよ?悔しかったのよ…きっと…』
「私が死んだら…先生…泣くかな?」
噛み合わない言葉。
それが私には悲しい。
「実はね、私、いじめられてたの。中学の時に」
『…知ってるわよ』
「高校生になったらなくなる。そう思ってた」
『私…だって』
「でもね。私、一人ぼっちだった」
『私だって…おんなじよ』
「…でも」
『…でも』
その先の言葉は、私も彼女も同じだった。
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