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溢れる涙は彼女のものか。それとも私のものか。
多分、ううん、きっと私達の涙。
「昨日ね。中学の時に私をいじめてた奴に街で会ったの」
『?!』
「また、いじめられる…そう思った」
『そんな…そんな奴なんて…』
「怖いの…怖いのよ…」
『そんな奴なんて…私が何とかしてあげる!』
「だから、こんな所に来ちゃった…」
『バカ!それなら私に電話でもメールでもしてよ!』
「怖い…でも、一番怖いのはね…」
『……?』
「私がいじめられてたの知って、やっとできた友達が……あなたが……私の事、嫌いになるんじゃないかって……考えて……それが一番…怖くて…」
『……バカ』
私だって中学の時にいじめられていた。
そんな私が、いじめられている彼女を嫌いになるわけない。
ううん。
それだけじゃない。
私は、彼女と一緒に、彼女をいじめる奴と闘う。
「でも、ここまで来て、なんとなくだけど」
『…ん?』
「もしも、この話をしたら、あなた、笑ったり怒ったりしてくれそうな気がする」
『………』
まるで見透かされたようで私は少し恥ずかしかった。
「誰も信じられなかったのに…」
『私もよ…』
「いつからかなぁ?」
『いつの間にか…よ』
「……信じられる人」
『信じ合える人』
「友達ができたのよね」
『お互いに、ね?』
地面から吹き上がる風に彼女は笑った。
「あ~あ」
軽く伸びをしながら、彼女は腰に手を当てる。
「や~めた!」
『えっ?!』
「そうよね。どうせ死ぬなら、私をいじめる奴に一回くらいギャフンと言わせたいわよね」
『もしかして…』
「私一人じゃ無理……でも、今は私、一人じゃないもんね?」
『飛び降りない…?!』
「やめよ、やめ!」
もしかすると、これが過去で、彼女が飛び降りないなら……未来が変わる?!
『そ、そうよ!やめよ?ね?帰って、明日、そう明日!明日、私に話をしてよ!一緒に、私と一緒に、そいつをギャフンって言わせる作戦…立てよ?』
「さ…て、と。じゃあ帰りますか?」
『うん!帰ろ!…変えよ?未来…私達の…未来を!!』
これは、もしかすると神様が起こしてくれた奇跡かも知れない。
私の意識を過去に飛ばして、彼女の運命を変える奇跡。
そんな事があるなんて信じられない。
だけど、現に私は過去を変えようとしている。
「よいしょ…」
クルリ。
彼女は踵を返す。
これで過去が変わる。
私と彼女の未来が変わる!!
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