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それは一瞬だった。
その一瞬が、異常に長く感じた。
スローモーション。
踵を返した彼女の手から、携帯電話が滑り落ちた。
そして、きっと反射的に動いてしまったのだろう。
彼女の手が携帯電話へ伸びる。
なんとか手は携帯電話を掴んだ。
フワリ…。
しかし、手が携帯電話を掴んだ瞬間、足は空中へと。
『そんな?!』
彼女の体は空中で回り、満天の星空を眺めた。
「………」
絶句する彼女。
満天の星空を眺めながら、背中の風が吹き抜ける。
違う。
風が吹いているんじゃない。
彼女が、背中向きに落ちていた。
『いやーーーっ!!!!』
落下する感覚よりも、彼女が落下していく事に私は悲鳴を上げた。
私は過去に来て、彼女が自殺しないように止めに来たはず。
そう信じていたのに…過去を変える事、できると思ったのに!!
ゴオォォォ…ッ!!
突風のような音に包まれ、彼女の体は落ちていく。
「(…ごめんね…私…本当に…死んじゃう…ごめんね…)」
抵抗もできず彼女は落ちながら心で呟いていた。
『嫌よ…こんなの…』
「(私達、ずっと、友達、だよね?)」
『当たり前じゃない!!』
そして世界はまた暗転した。
その刹那、彼女は最後に私の名前を呼んだ。
真っ暗な世界で、私は泣くしかなかった。
これは、私が過去に飛ばされたんじゃない。
これは、彼女の記憶。
彼女の…最後の記憶。
そう分かって、私は泣くしかなかった。
暗闇に包まれながら泣き続ける。
彼女は自殺しようとした。けど、最後には自殺はやめた。
なのに…なのに…どうして…こんな…こんな事に…。
一体、誰が悪いの?
彼女?
彼女をいじめてた奴?
私?
それとも…運命?
どこに責任を追求しても、変わらない。変えたかったけど変わらない。
それが痛くて、痛くて…苦しい。
『泣かないで…』
とめどなく流れる涙を拭くこともない私に、誰かが優しい声をかけた。
これは…彼女の…声?!
「ど、どこにいるの?!ねぇ!」
弾かれるように闇に向かって声を張り上げ、彼女を探した。
『私は…ここ…』
見ると闇の中に一点だけぼんやりとした光がともる。
「あ…」
その光は音もなく近付いてくる。
『会いた…かった…』
それは、紛れもなく彼女。
彼女は微笑みながら立っていた。
色々な疑問や質問が頭で渦をまく。しかし、私は思わず笑った。
「私も、会いたかった」
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