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正確な訃報を知らされたのは、翌々日に持ち越された終業式。
それまでに私のクラスだけは、一昨日の自殺者が誰なのか分かっていた。
その日、教室を訪れると、一つの席に花。それは、彼女の机。
改めて現実を目の当たりにし、私は呆然と立ち尽くすしかなかった。
そんな私の耳に、信じられない言葉たちが飛び込んでくる。
「あ~あ、夏休みが二日も無駄になった」
「どうせ死ぬなら夏休み入ってからにしてほしかった」
「学校で死ぬなよ。死ぬなら自分ん家で死ねよ」
その他、もろもろ……。
ヒソヒソと、コソコソと、誰の言葉か分からないように声がする。
「(……酷い)」
思わず口にしそうになるのを堪え、私は自分の席から彼女を――花を眺め続けた。
終業式。
そこで語られる一人の女子生徒の悲報。
「亡くなった彼女の分も、皆さん、生きてください。そして、これから始まる夏休みを有意義に過ごしてください」
校長先生の言葉に、みんな上辺だけ神妙な顔をする。
どうせ心の中じゃ『ダルい』とか『早く終われ』とか思ってるに違いない。
なんとか終業式も終わり、一学期最後のホームルーム。
もちろん担任は彼女の話を持ち出し、沈痛な面持ちで瞼を閉じた。
そうして下校の時間になり、何事もないようにクラスメートたちは一人、また一人と教室を去っていく。
「…少し、話、いいか?」
不意に担任に声をかけられ、私は生徒指導室へ連れて行かれた。
その部屋には、校長と教頭、学年主任の先生と生活指導の先生が待っていた。
まるで私が何か非行でもはたらいたみたいな雰囲気。
しかし、先生たちが私に聞きたい事は、彼女についてだった。
「何か気付いた事、気になった事……何でもいいから聞かせてくれないか?」
重たい声で担任は私の顔を真っ直ぐ見る。
気付いた事。
気になった事。
私は考えたが、何も浮かばない。何も思い当たる節がない。
「前の日まで、夜までメールで夏休みの話したり、学校でも、八月にある花火大会の話をしたり…普通に…普通だったのに…何も、そんな話なんて…死ぬなんて…」
私は自分が何も知らない事を告げながら、何も知らない自分が悔しくて、何も言わず自殺した彼女が悲しくて、ボロボロと息を詰まらせた。
「…そうか。すまない」
担任は私の頭を優しく撫でてくれた。その目に涙を貯めながら。
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