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「飛び降りるの……止められたのかも」
そうじゃない。
「もしかすると…飛び降りるの…止めて…ほしかったの…かも」
深夜の学校。その校舎の屋上。暗い中、携帯電話でメールを打つ彼女。しかし、待っても返信がない。きっと、絶望した。きっと、悲しくて、悲しくて、悲しくて飛び降りた。
その光景を想像して私は叫んだ。
「ごめん!!ごめんなさい!私…止めてあげられなかった!!」
泣きながら私は叫んだ。
彼女の名前を。
自分のふがいなさを。
「…君のせいじゃない」
校長が首を振るが私は認められなかった。
もしも、ちゃんと彼女が送っただろう深夜にメールが届いていれば。私は深夜でも駆けつけていたはずなのに、と。
「こんな時期に携帯電話会社が混雑するなんて……くそ!!」
あまりのタイミングの悪さに、いつもは穏やかな担任が壁を殴りながら吠える。何度も何度も壁を殴りながら。
花束や線香がそえられた校庭の一部。
そこに立ち尽くし私は泣いていた。
いつ、自分がそこまで来たのか。その途中の事は何も覚えていない。
「なんで…」
どうして彼女は飛び降りたのか。
高い校舎を見上げると青い空。
それを切り取る屋上。
そこから彼女は何を思いながら、その身を投げたのか。
もしかすると、メールを返信しなかった私を恨みながら飛び降りたのかも知れない。
悲しかったのか、怒りに身を任せたのか。それは分からないけど。
「ごめんね…」
私が悪いわけじゃない。
それは何度も先生たちに言われた。
でも、彼女はそれを知らずに死んだ。
こんな不幸があっていいの?
愕然としながら私は一昨日のメールに返信を打った。
『死ぬなんてバカなこと言わないで。何があったか知らないけど、もう夏休みなんだから一緒に遊ぼうよ?何か悩みあるなら聞くよ?』
ユラユラと文字たちが揺れる。
送信しても返事は来ない。
泣きながら私は携帯電話を抱き締めた。
明日から夏休み。
それなのに私は学校から帰り、自分の部屋にこもった。
プリクラ帳を広げ、色々な彼女を眺める。
笑った顔、おどけた顔、しかめっ面、変な顔……あるだけの彼女を眺めた。
その時、不意に携帯電話が短く鳴る。
誰かからのメール受信。
私は気乗りしない手で携帯電話を掴んだ。
が、そこにある名前を見て絶句した。
それは、彼女からのメール。死んだはずの彼女からのものだった。
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