消えた1の背番号

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僕は野球部を退部し、学校が終わると同時に家に 帰る日々が続いた。 グローブやバットなど野球に関する物はすべて 捨て去った。それを見ると昔の事を思い出してし まうから... そして今日でちょうど一年が経過した。 夏休みの最中ふとテレビをつけて見ると野球中継 が流れた。 すぐに変えようとしたがチームの名前をみてリモ コンを落としてしまった。 【一ノ瀬学園】僕が通っている学校だ。 そして今地区予選決勝戦が行われていた。 9回が終わって0-0 2アウトランナー2塁。そし て打席には4番キャッチャー中井。 カウントB3S2、そして第六球目アウトコース低め のスライダーを流しサヨナラタイムリーとなった。 打った中井はガッツポーズを決めてベンチに戻る。 試合が終わり僕は安堵した。 野球を辞めて良かった.....と。 もし自分が残ってあそこのマウンドにいたら勝て ていなかったかもしれない。 試合後の記者会見で中井が取材されていた。 中井は昔から人前で話すのが苦手でどの質問も口 ごもっていた。 だけどある質問に対してだけは違った。 『中井選手今この喜びを誰に一番伝えたいです か?』 この質問を受けた中井は神妙な顔になりカメラ目 線になった。 『....去年までうちにいた4番のエースに伝えた いです。去年この大会で負けた責任を強く感じ 辞めてしまった自己中のやつに...』 自己中のやつ....?僕の事....? 『そいつは誰よりも熱心で誰よりも甲子園を夢 見て毎日練習をしていました。俺達最初はそれ を嘲笑ってました。「行けるわけない」と...。 だけどソイツの熱心に練習をする光景を見た俺達 もいつの間にか甲子園の事を意識して練習をする ようになりました。そして迎えた決勝戦。結果は ご存知の通り負けてしまいました。』 中井の話に僕はテレビに釘付けになっていた。 なぜ中井が僕の話をするのか...僕はもう関係ない のに....。 『俺達の力が無かったばっかりに負けた試合で した。その日の夜皆で話し合いました。来年こ そ皆で甲子園に行こうって...なのに...なのにあい つは...』 喋る中井の目から涙が流れ落ちた。 『アイツが来なくなった日から俺達は今まで以 上に練習を頑張りました。アイツの夢を俺達で 叶える一心で。それと同時に戻ってきて欲しか った俺達のエースはアイツしかいないのだから』
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