【1】遺能者

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触れ合ってはいけないと思いながらも、俺は雪也を抱きしめていた。 俺は確実に雪也を好きになってきている。 それでも、先に進めないのは、遺能者という壁だった。 遺能者でなければ俺が雪也の思いを知ることも、同性である雪也を恋愛対象にすることも、なかったと思うと複雑な気持ちになる。 “瑞樹・・・。この腕に抱きしめられると安心する。このまま瑞樹を離したくない。こんな思い知られたら気持ち悪いって思うんだろうな。でも、今だけでも、いつか諦められる日が来るまで好きでいさせて。こんな思いを隠してる俺を許して・・・。” 雪也は声には何も出さなかった。 俺はそんな雪也を愛しいと思っている自分に気づく。 すぐに答えられたらいいのに。 出来ることなら待っていてほしい。 抱きしめる腕の力を自然と強めていた。 でも、そんなこと俺の我儘だ。 雪也が他の人を好きになってしまったら仕方ない。 あまり抱き合っていると、俺の理性が持たなくなる。 雪也は一般人。 俺の体液は・・・。 雪也を離し、俺は笑みを浮かべた。 「帰ろう。下まで一緒に行こうか。」 「うん・・・。」 頬を赤らめている雪也を俺は気付かないふりをした。
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