【1】遺能者

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俺がこんな状態だからなのかわからないけれど、本音でもある雪也の心の声は、俺を捕らえて離さない。 離れられない俺もバカだよな。 雪也、俺もお前が好きだよ。 今はまだ言えないけどな。 もし、雪也が俺のことを知って、受け入れてくれるのなら、その時は俺の思いも一緒に伝えよう。 その時には俺の覚悟も出来ているだろうから。 「瑞樹、今日の人たち、すごかったね。」 「あー、遺能者の?」 雪也は俺のほうを見ないまま頷いた。 まだどこかぎこちなさはあるものの、いつものように振る舞っている。 「でも、ちょっとだけ悲しいな。」 「悲しい・・・か・・・。」 「だって、あんなに思い合ってるのに一緒にいられないんだよ。」 俺は何も言えなくなった。 その言葉に雪也の俺への思いが込められている気がして。 俺が雪也をこっちへ引き込んでしまえば、雪也は今までの生活が出来なくなる。 家族にさえ、会えなくなるかもしれない。 雪也が望めば受け入れるけれど、真実を知らないままでは、俺は雪也の思いに知らないふりを続けるしかない。 今まで通りの友人の関係でいるしかない。 「そう・・・だね。」 俺は雪也に頷くしか出来なかった。
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