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婆ちゃんを殺したことも忘れ、家に寄らずにそのまま会社に出勤した。
事務所に行き出勤簿にサインしようとした時、奈良さんの声がかかる。
「それにサインする前に社長室に行きな。
社長が呼んでいるから」
声がした後ろを見ると、奈良さんが軽蔑したような白い目で優吾を見ていた。
優吾は奈良さんの白い目を見て、何か怒らせたかなと思いながら、事務所の隣にある社長室のドアをノックする。
中から社長の返事が返ってきた。
「オウ」
「原です、入ります」
社長室に入った優吾を社長は手招きして、自分のデスクの前に立たせると、徐に話しを始めた。
「昨日、君の家に香典を持ってお伺いしたのだよ。
応対してくれたのは誰だと思う?」
そう言われて優吾は、昨日サボる口実に婆ちゃんを殺した事を思い出す。
「えっと、その…………」
言い淀む優吾に社長は言葉を続ける。
「お亡くなりなった筈の君のお婆さんだよ。
お陰で私は赤恥をかかされた。
何か言うことあるかい?」
「す、すいません」
「それでだ。
私はもう君という人間が信用ならなくなってね、辞めてもらいたい」
「か、か……勘弁してもらえませんか?」
「勘弁ならないね。
君はなくしてしまったのだよ。
信頼という大事なものを。
奈良君のところに行き、今月の日割りの給料と退職金を受け取って、出て行ってくれないか」
社長は一方的にそう言い放ち、ドアを指さした。
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