第1章

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婆ちゃんを殺したことも忘れ、家に寄らずにそのまま会社に出勤した。 事務所に行き出勤簿にサインしようとした時、奈良さんの声がかかる。 「それにサインする前に社長室に行きな。 社長が呼んでいるから」 声がした後ろを見ると、奈良さんが軽蔑したような白い目で優吾を見ていた。 優吾は奈良さんの白い目を見て、何か怒らせたかなと思いながら、事務所の隣にある社長室のドアをノックする。 中から社長の返事が返ってきた。 「オウ」 「原です、入ります」 社長室に入った優吾を社長は手招きして、自分のデスクの前に立たせると、徐に話しを始めた。 「昨日、君の家に香典を持ってお伺いしたのだよ。 応対してくれたのは誰だと思う?」 そう言われて優吾は、昨日サボる口実に婆ちゃんを殺した事を思い出す。 「えっと、その…………」 言い淀む優吾に社長は言葉を続ける。 「お亡くなりなった筈の君のお婆さんだよ。 お陰で私は赤恥をかかされた。 何か言うことあるかい?」 「す、すいません」 「それでだ。 私はもう君という人間が信用ならなくなってね、辞めてもらいたい」 「か、か……勘弁してもらえませんか?」 「勘弁ならないね。 君はなくしてしまったのだよ。 信頼という大事なものを。 奈良君のところに行き、今月の日割りの給料と退職金を受け取って、出て行ってくれないか」 社長は一方的にそう言い放ち、ドアを指さした。
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