Do not let this hand

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桜の蕾が膨らんで来た。 私は今、名古屋に住んでいる。 マチさんの旦那さんの転勤で東京から越してきた。 編入試験を受け名古屋の高校に通いだした。 空を見上げる。 東京と違って空が広い。 暖かい陽の光を顔を上げて受け止める。 下ばかり向いていたあの頃とは違って、新しい自分の道を歩き始めている。 全てを忘れることはできないけど、自分をリセットしてやり直せる気がした。 「リカっちー行くよー!」 「うんっ!」 友達も作ることができた。 「東京ではどんな服流行っとるの?」 「そんなのこっちと変わらないよ。」 思い出した…。 忘れようと胸の奥にしまっておいた小さな小さな恋心。 革ジャン…どうなったかな。 すれ違う革ジャンの男に目がいってしまう。 「リカってば革ジャンの男ばっか見てー!」 「ええっ!そんなことないよ~。」 あ! 革ジャンのお店の前で立ち止まる。 「入ってみてもいい?」 「わーぉ!ハードやなー。」 笑いながらついてくる香奈。 店中に広がる皮の香り。 振り返る金髪のモヒカン男。 「いらっしゃい。」 懐かしい気持ちが胸の中で音を立てる。 「高っ!革ジャンって高いんやね。」 ふふっと笑う。 カランカランと音を立てて店の扉が開くと、革ジャンを着た男が二人入って来た。 私達はすれ違って外に出た。 ーーーダメだ。 あの格好の人達を見ると胸が苦しくなる。 「香奈はどんな音楽聴くの?」 「ん~、私はアイドルばっかだよ~。リカっちは?」 「……ロック、かな。」 「ふーん、やで革ジャンが気になるんやな。」 「あはは…」 あれからカイの歌は聴いていない。 聴いてしまったら…ダメな気がした。
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