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「放せよ!」
小柄な松崎を抱える俺は、学園最寄りの町へ降りてきていた。
新入生歓迎会で松崎に捕まり、こうしてデートをすることになったのだが――
「いでで」
ファストフード店で喧嘩をし、店を飛び出した松崎をやっと捕まえて、大通りから外れたところだ。
また逃げられないように民家のブロック塀の前で松崎を下ろすと、俺は両手を壁についた。
「もう、逃がさねーよ?」
「――っ!」
意地悪く笑うと、松崎は息を飲んで大人しくなった。
それを見て気持ちが浮わつくのを抑えつつ、今度は悲しい顔を作ってみせる。
「ったく、手間掛けさせて……そんなに俺が嫌かよ」
「! や……じゃねー……」
「何だ? 聞こえなかった」
頬を赤くして不貞腐れながらも、一生懸命答える松崎に俺は、つい聞こえないフリをした。
「だ、だから、やじゃねーって!」
益々、顔を赤く染めて見上げてくる松崎を、俺は可愛いと思ってしまった。
「そうか。松崎は俺の事、好きなのか」
「えっ、なん――!」
松崎の言葉が、最後まで口から出ることはなかった。
「んっ……」
代わりに漏れたのは、甘く震える喘<あえ>ぎだった。
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