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春うららかな今朝、日直当番に当たった俺は、眠い目を何とかこじ開けて部屋を出た。
寮の前には既に見慣れた後ろ姿があり、今朝の憂鬱な気分はすっかり吹き飛んでしまった。
しかし、それをこいつに知られたくない俺は極めて平静にそいつに近付く。
「はよっす」
「ん」
俺の姿に気が付くと、振り返ったそいつは朝日のような笑顔を俺に向ける。
「今日はちゃんと起きたな」
そう言って、俺の頭に手を伸ばすそいつに驚いて、思わずその手を叩き落としてしまった。
顔が熱くなる前に自分への嫌悪感が訪れ、再び憂鬱な気分が襲う。
気まずさから先を歩くが、そいつは特に気にする様子もなく俺のあとを追い掛けてきた。
「これで、地獄の課題はなしだなー」
俺が大したリアクションをしなくても、そいつは1人でよく喋る。
無口だと言われる俺だが、冗談を言っても伝わらず、これといって話したいことも無いのだから仕方がない。
それでも、こいつは俺の冗談を冗談として聞いてくれる。
俺にとっては、希少な人物だ。
快い朝の道を歩いていると、隣を歩くそいつが何かに気が付いて立ち止まった。
「あれ、誰か門の前に立ってんぞ」
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