【前世】

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母さんはいなかった。 物心ついた時から父さんとの男二人暮らしだったけど、父さんに大切にされていた俺は 生活に不自由を感じたことも 寂しさを覚えたこともなかった。 父さんとの当たり前の日常が ‘異常’だったなんてことに気が付いたのは 中等部に上がって一ヶ月ほど過ぎた頃だった。 何気ない会話が、破綻の始まりだった。 「え……お前まだ親と一緒に風呂入ってるの?」 「父さんが親子だったらお風呂も寝るのも当たり前だって……」 「寝るときも一緒?自慰とかどうしてんだよ」 「それは父さんがしてくれるけど……」 新しく出来た親友は、 信じられないといった風に頭を振った。 親友の苦い表情を見ていると いけないことをしてしまったような気持ちになっていく。 軽いめまいがした。 どこの家庭も一緒だよって父さん言ってたのに…… 「お前の父さんおかしいよ……」 親友の独語が耳に残った。
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