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月明かり。 足音が、砂利を踏みしめる。 シンとした静けさの中に、小さな子供の姿があった。 しかし、足音は、この子供のものではない。 村の外れに街灯はなく、貧民街に住む者たちは夜目が効いた。 高度経済成長とは無縁。 明日はおろか、今日の飢えをしのぐ為の食べ物も危うい、法律の届かない夜の世界。 それが、この貧民街の全貌だった。 足音が大きくなる。 子供は待っていたかのように、闇から一歩踏み出す。 足音の前に姿をあらわすと、月が彼らの顔を照らした。 足音の主は、カメラマンだった。 無精髭を生やし服は泥にまみれているが、おそらく20代後半だろう。 対する子供は、痩せこけた頬を晒し、針金のような手足をしている。 痩せているせいか、夜のせいか、それとも幼いせいか、性別を判別することはできない。 カメラマンの纏う緊張感が緩む。 その頬には、薄い笑みすらあった。 カメラマンは言う。 __こんな夜更けにどうしたの? __ここは危ないよ。家まで送っていこう。 子供はゆっくりと首を振って、そして笑った。 _大丈夫だよ。 _ありがとう。 そして言った。 _さようなら。
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