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「彼が失ったもの、右目」
綺麗にネイルが施された指先が一人の青年に向けられる。
僕はそれを白い目で一度見遣って、再び青年に視線を戻した。
彼女は無邪気な声で続ける。
「彼が失ったのは左足、彼は右腕、彼女は記憶。どれも悲惨ねっ、さすがウソ!」
「僕をその名前で呼ぶのはやめてくれないかい?ニエ」
「私をそのナマエで呼ぶのもやめてっ!」
不機嫌に頬を膨らませるニエ。
子どものように振る舞うけれど、彼の右目や彼の左足、彼の右腕に彼女の記憶を奪ったのはニエの仕業だ。
何かを望めば、その代償を負うべきだ。それが彼女の考え。
そして、僕は彼女のいいなり小道具。
「はぁ。で、彼らは何を望んだの」
人から何かを奪うのは、あまりいい気分ではない。
人に悲鳴というのは綺麗な声ではないし、聞いてるこちらの気が狂いそうになる。
出来ればやりたくない、が本音。
でも、僕はニエの道具だから。ニエが【やれ】というならばやらないわけにはいかない。
彼女は高く結んだ髪の毛を揺らして鼻歌を歌う。
「彼らはね、人生の御仕舞を望んだの。だから私は彼らに犠牲とウソを与える」
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