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彼らにはそれぞれ自分の一部を削った状態で、彼らが一番大切に思っている人の過去を体験してもらう。
それがどんなに苦難か、味わえばいい。
にっこりとそう言い放てる彼女は悪魔なんだろう。
「彼らはもう、大切な人に大切だと言えない。愛してると伝えられない。会うこともままならない」
ざまあないよ。
今日のニエはご機嫌だ。
「相変わらず趣味が悪いね」
僕が言うと
「ありがとう」
言葉を理解できない彼女は礼を言う。
人から様々なものを奪いながら生きながらえる僕とニエ。
かくいう僕たちも何かを【なくしてしまった】人の一人だということを、たぶん誰かに理解してもらうのは難しいことだろう。
何かを望むと、何かを失わなければならないこの世界の定。
「ニエ」
「だからぁ、やめてってばぁ。なに?」
「満たされてる?」
僕が問うと、彼女はきょとん、と首をかしげる。
「満たされてるよ~」
ゆがんだ口元。笑顔を奪われてしまった彼女は笑うことができない。
「そう、ならいいんだ」
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