序章

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ユーリは父親を2年前に亡くして以来、感情を表に出すことが思うように出来なくなってしまった。考えがまとまらない。ぐるぐる同じ単語が頭を巡る。 (ふうせん、ふうせん、ゆらゆら、ゆらゆら・・・) 一度何かに目を奪われたら中々帰ってこれない。夢の中で現れたものだったらなおさら。夢から覚めても夢を忘れられない。1日の中で何度も夢で起きたことが思い起こされる。 (ゆめのなか。遊園地・・・) 彼女は昨日、夢の中で遊園地の中を縦横無尽に駈けまわった。観覧車から見下ろした虹色の世界、ふわふわと浮かび上がる無数の風船、やわらかい馬の背中が上下するメリーゴーランド、回転に合わせてキラキラ輝くコーヒーカップ・・・。 昨日の夢は夢で終わらせたくなかった。 だからなのか、遊園地に行きたいと、思わず口に出してしまったのは。 ユーリには、夢心地でいたいという理由の他に、もう一つの理由があった。 遊園地に行くことで、何かが始まる予感がしたのだった。その予感を確かめたかったのだった。
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